「ホムンクルス」号泣論

「ホムンクルス」号泣論

「ホムンクルス」号泣論

評論/石原貴洋

山本英夫先生コメント付き!

 

 

崩れ落ちるほどの号泣をした経験はありますか?

 

「ホムンクルス」コミック全巻を通して描かれている根底のひとつに号泣描写があります。封印していた過去の自分の忌まわしいエピソードに直面した登場人物たちが号泣するのですが、心理学的には過去の自分が泣いている事になるのでしょう。言い換えたら、現在泣いている自分は意識側の自分、過去で泣いている自分は無意識側の自分なんでしょう。

 

辛い事、忘れてしまいたい事は誰にでもあると思います。完全に忘れてしまいたい、というエピソードもあるでしょうし、もうすでに完全に忘れ去ってしまっているエピソードもあるでしょう。もし、悪夢に悩まされていたり、過食や拒食をしたり、原因不明な体調不良を繰り返している方は、過去の忌まわしいエピソードを成仏(消化)出来ていない可能性があります。

じゃあ、どうすれば過去の忌まわしいエピソードを思い出して成仏出来るのか?

自分でも思い出せない、思い出しにくいものをどうやって思い出していくのか?

という話ですが、これは僕の持論で展開させてもらいます。

それは小説や漫画や映画を鑑賞中に、自分の心に刺さるシーンはどこなのか?

そういう意識で鑑賞すると新たな発見があるかもしれません。あるシーンを見ていて(読んでいて)涙が出てくる。その涙は、現在の自分の涙かもしれないし、過去の自分の涙かもしれません。他の作品に触れても、泣いたり心に刺さったりするシーンが似たような描写の場合は、過去の自分からのSOSである可能性が高いと思います。普段穏やかな性格なのに、ある一つの事に関しては断固許せない、ムキになって怒ってしまう、なんて事も過去の自分と関係がある可能性が高いですね。友人に「何で○○にムキになるの?」と言われた事はないですか?そのムキになってる要素こそ、過去の自分と関係があるのです。「ホムンクルス」コミック2巻の組長が、なぜあんなに指を詰める事にこだわるのか? やはり理由がありました。

 

僕の恥ずかしい話をしますと、岩井俊二監督の「打ち上げ花火」という作品が大好きなんですが、これには理由があります。マドンナ役の奥菜恵が「今度会えるの二学期だね。楽しみだね」というセリフがあって、毎回、このセリフで号泣してしまいます。僕は小学時代、明るく誰とでも仲良くするタイプだったんですが、中学時代で屈折しちゃいました。人間関係や信頼関係が崩壊してしまった中学時代からすると、女の子たちとも仲良くしていた小学時代は過去の幻の楽園になる訳です。小学時代はいろんな女の子からホームパーティーに誘われるくらいの人気者でした。だから、「今度会えるの二学期だね。楽しみだね」のシーンで号泣してしまう訳です。ちなみに泣いているのは僕の中の中学時代の自分ですね。ああ、恥ずかしい。

恥ずかしいけども確実に言える事は、自分で気づいた方が、豊かな人生が広がっているという事です。辛い作業ですが、過去の自分を成仏した方が、人生ポジティブに生きていけます。何よりも心と体が健康で良いですよ。

 

健康とはバランスがとれている状態なのに対し、不健康とはアンバランスな状態を指します。「ホムンクルス」に登場する数々のバケモノたちは、どこかで心のバランスを崩してしまっています。外資系の銀行で数字や記号を扱ってきた主人公は、記号生活で実感のない砂の女子高生とリンクしてしまいます。「見る」事に長けていた主人公自身、心のバランスを崩していたのです。

コミック1巻に登場した太ったオッサンは、ホムンクルスでは紙のようにペラペラでした。コミック3巻で伊藤は、そのペラペラの理由を「内面的な薄っぺらさを補うため、大量に食べて外面が太ってしまったに過ぎない」と見抜いています。少し細い程度や少し太い程度なら大丈夫ですが、極端に細い人、極端に太い人は要注意です。心と体のバランスがとれていない可能性が高いです。日本に近い位置にある独裁国家の太った指導者、彼もホムンクルスではペラペラだと思います。ただ美味いものを食ってるから、という理由だけじゃなくて、彼は無意識で自分の無能さ・操り人形っぷりを自覚しているだろうから何とかして貫禄だけでも付けなきゃ!っていう太り方になっていると思います。人生経験のない顔つきを見たらわかります。

 

そう思うと優れた経営者というのは、心と体のバランスがとれてる方が大多数という印象です。実際にお会いさせてもらうと、ブレが少なく、心と体の在り方がピタッと一致している感じがします。少しでもブレると経営の判断ミスで大きな損失を生み出してしまうので、そうなるのでしょう。心と体のバランスが一致した時、人間は一人前になり、社会を動かす側になる、という事かもしれません。

 

ちなみに映画界の話ですが、ハリウッドのプロデューサーや監督に、すげえデブが多いのも理由があると思います。彼らは美味い料理を食べ美味い酒を飲んでいるのは当然として、太る最大の理由は「情報入手過多」と、単純に「強欲」が表れているからでしょう。いろんな企画や脚本を仕入れて、いろんな映画を見て、いろんな金の流れをチェックして、自分好みの性の対象を探して、そうこうしているうちに、仕入れた情報が体の栄養に変換してしまっている、そういう事だと思います。太りやすい体質も遺伝的に当然あるでしょうが、ハリウッドのプロデューサーや監督の太り方の正体は、おなかに万物を吸い込む歯車が回っているホムンクルスです。彼らが万が一、号泣して自分の歪みを理解し、おなかの歯車を取り除いた時、平均体重の体に戻るのでしょうか。観察してみたいものです。

 

「ホムンクルス」コミック全巻を通してのテーマとも言える号泣。

 

主人公は他人の心の歪みが「見える」という能力を手に入れてからとホムンクルスのバケモノを号泣させて本来の等身大の姿へと導く事が出来ました。では、ホムンクルスが見えないと号泣治療は出来ないのか? それは違うと思います。相手をちゃんと「見て」ちゃんと「向き合って」話し合えば切り口は見えてくるはずです。親、兄弟、親戚、友達、職場、etc。人間関係でトラブルが多い場合は、どちらかが、あるいは両者がちゃんと相手を「見ていない」のでしょう。

 

損得なしで、あなたを見てくれているのは誰でしょうか?

あなたをちゃんと理解してくれているのは誰でしょうか?

自分をちゃんと見てくれる人を大切にしたいし、自分もそんな人をちゃんと見続けたいですね。

 

山本英夫先生コメント

確かに、
潜在意識には〝号泣〟が潜んでいる。
と同時に、同じ重りの〝嬉笑〟も潜んでいるのではないでしょうか。

光を当てた分、色濃く影が走るように・・・

どちらも宝物(自分)です。